病 院

交通事故で入院中の知り合いのお見舞いに行った。大変な事故だったら しくて、お見舞い許可が出たのは、事故後一ヶ月以上経ってから。駒沢公 園近くの、とっても大きな病院である。
 土曜日で、外来受け付けも終わっているから、正面玄関は閉鎖されてい る。夜間受付から入り、病棟へ行くのだが、人の波(ってほど大袈裟じゃ ないが)に乗って、なんとかエレベーターホールにたどりつく。これ、普 通は迷うよ。絶対。

わたしの母親は、どこか悪くなると、とにかく病院に行く。しょっちゅ う、家族の誰かしらが病院に罹っていた。だから、わたしもどこか変だと 思うと、すぐに病院に行っていた。
 幼稚園のとき、アデノイドという病気で、大きな病院に手術入院したこ とがあり、それ以外でも何度か入院している。バイクで事故したりとか。 病院はそれほど非日常のものではなかった。
 新横浜に大きな労災病院ができた。小机に移り住んですぐのころだ。ド ラマの撮影なんかでも使われるような、きれいで近代的な病院である。内 科など、半日待って診察五分。それでも、労災病院によく行った。父も糖 尿病やら肝炎やらで入院したりして、近所で身近だし、大したことなくて も、あれだけ大きな病院だと、病気してるという病気感があって、よかっ た。
 高校を卒業したあとに、派遣の医療事務に携わったことがある。その労 災病院のカルテ室。そこでカルテファイルの仕事をした。
 病院が日常のものになる。消毒液の匂い。せわしない看護婦さんの動き 。診察時間終了後の、ひっそりとした広い待合室。食事時の、病院食の匂 い。
 派遣仲間のおばさんと喧嘩して、半年もしないで辞めてしまったが。

 

何年か後に始めた、ビルメンテナンスのバイトでは病院の現場が多く、 大きな病院のガラスすべてを、何日かかけて拭いていく。いろんな人が、 いろんな病気で入院している。ICUとかも入って行く。新生児室も、専 用のマスク、上着、手袋にアルコール消毒を忘れずに、入って行って、ガ ラスを拭く。手術室や、研究室も。
 病室と違って、診察室や研究室などは、誰もいない時に入って行くので 、しんとして独特の雰囲気だ。ホルマリン漬けの臓器や胎児や、そんなも のにもお目にかかる。
 霊安室のある廊下などは、寒々しい。
 みんな嫌がる、病院の匂い。

忘年会で一緒に飲んだ帰り道、彼女は交通事故に遭った。最初、突然シ フト表が休みに変わってる彼女が事故だなんて、知らされなかったから、 とっても驚いた。生死をさまようような、大事故だったらしい。
 でも、彼女は思いのほか、元気だった。固形物が食べられるようになっ てまだ一週間だが、流動食のときにくらべて回復が見違えるほどなんだそ うだ。食べるって大切なことだね、と、料理人の彼女は心から言った。
 彼女の入院する病院で、久しぶりに大病院の匂いを嗅いだ。生と死の共 存する、不思議な空間。わたし、病院が好きなのかも。いろんな記憶が交 差して、そんなことを思う。
 めずらしい人だねー、と彼女は笑った。

 

彼女の教訓。保険に入ろう。だって。
 わたしもそう思う。仕事休んだらお金入ってこない、その日暮らしのフ リーターですから。

おだいじに。