うちには炊飯ジャーがない。ひとり暮らしを始めたのが、去年の七月。
友達の家を転々として、準備金もなかったので、家電製品を揃えられなか
った。だってひと揃え二十万くらいはするでしょ、「無印良品」とかの新
生活フェアとか見ると。だからわたしは、リサイクルショップに行って、
冷蔵庫と洗濯機を各五千円で買った。そしたら、店のおじさんがおまけだ
と言って、電子レンジをつけてくれた。テレビデオも近所のリサイクルシ
ョップで、取り付けまでしてもらって、一万円だった。
キッチン用品も、旅をしていたときのコッヘル(中なべ、小なべ、フラ
イパンがコンパクトに一つにまとまるようになっている)と、百円ショッ
プの小さいまな板、包丁も折りたたんで小さくしまえるキャンプ用。最初
は米もコッヘルで、ふたの上には、旅の間中、ちょうど良い重さだからっ
て道連れにしていた大きな石をのせて、吹きこぼれないようにして、炊い
ていた。火があればいいでしょ。炊飯ジャーはいらない。
みずかちんは料理好きなんだから、ふつうのキッチン用具買いなよ、と
元同居人の友達に言われたりしながら、キャンプ道具で料理する。しかし
、月島で友達同士でルームシェアしているところで安く暮らさせてもらっ
てたとき、その家で大活躍していたシャトルシェフ(魔法瓶の原理で、火
にしばらくかけておいた鍋ごと外鍋に入れて放置しておくと、煮込み料理
ができてしまうという、経済的な鍋)、その便利さに魅了されて、買い求
めた。材料を放り込んでちょっと火にかけて、あとはほっとくだけででき
あがり。それで玄米までおいしく炊けてしまう。しかも火をかけている時
間は五分くらい。
玄米をまとめて三合炊き、十五回分に分けて、冷凍する。いつでも好き
なときに、玄米が食べられる。で、二週間に一度、シャトルシェフで米を
炊く。鍋蓋の隙間から香る、米を炊く匂いが大好きなのだ。
玄米を食すようになってから、どのくらい経つのだろう。旅の間もコッ
ヘルで玄米を炊いていたから、もう四、五年は経つのだろうか。いまは、
鹿児島の歌うたいがつくった合鴨農法、無農薬の米
を食べている。よく虫
が混じってる。とぐ時になるべく選別するが、炊きあがってよそった茶碗
のなかに発見することもある。だから恐らく多少は食べてしまっている。
それを言うとみんな気持ち悪がるが、虫も食わない米を食べている方が不
健康というものだ。その米は、ほんとうにおいしい。
しかしそのおいしさの秘密は、水のせいもあるのではないかと最近思っ
ている。いまや水を買う時代。東京の水はおいしくない。まして、古いマ
ンションに住んでいるので、貯水槽が信用できない。わたしは、バイト先
のお客さんの紹介で、
「日田天領水」というのを飲んでいる。体の活性酸
素を除去する活性水素を多量に含むという、大分は日田の地下水である。
サンプルを二十リットルもいただいて飲んで、そのおいしさに感動し、そ
れ以来ずっと飲んでいる。
その水にしてから、水を自然と多く飲むようになった。活性酸素を除去
してくれているからか、風邪をひかない。料理にも使う。みそ汁やスープ
がおいしい。コーヒーもおいしくなるはずだ。
それで、やっとケトルを買った。それまではお湯を沸かすのもコッヘル
で、別に不便もなくキャンプ気分を謳歌していたのだ。しかし、おいしい
コーヒーを自分で入れたくなり、ケトル購入に踏み切った。お湯を細く注
げる口のもの。最近お気に入りの、ピカンナッツのタルトを買ってきてコ
ーヒーを入れ、ひとり至福のときを過ごす。引きこもりに幸福感を感じる
、近頃のわたしである。
友人を招くのもたまにはいいが、人が来ると食器や料理道具の不足を感
じる。鍋などして、お椀が足りないから、中国製のかわいいお茶碗や、バ
リのココナッツの器を取り皿にしたら、熱くて持てない。そんなときに、
日本のお椀のすばらしさを知ったりする。
おいしいワインやシャンパンを奮発しても、よいグラスなどなく、陶器
の湯飲みやただのコップを使ったりする。ワインなどは、グラスひとつで
おいしさが違ってくると思うので、ぜひとも揃えたいアイテムだが、そん
な余裕はない。
とりあえず、普通のまな板が欲しい。しかし、キッチンを離れていると
きに、まな板のことなど思い出さないのだ。まじカレー作りにはまって、
玉ねぎみじん切りのカッターなど持っているくせに。
一人だからいいやって、コッヘルでオムレツ作ってキャンプさながらそ
のまま皿を使わずに食べたりするのって、寂しいかなー。