北の国から。

 

想念は言葉にした段階で、消費されて行くものだ。だれかに話すことに よって、また、このように記して行くことによって。この感動が薄れてし まわないうちに、明日だれかに話してしまって消費されるよりも、この想 念を文章のネタにしておこう。
 「北の国から 2002遺言」についてだ。
 らしくないと言われつつ、妹にビデオを録ってもらうことまでして見た 。今までのはほとんど見ていない。前回の宮沢りえが出てたのを初めて見 ただけだ。だから、田中邦栄が吾郎という名前なのもちゃんとわかってい なかったし、家庭事情もよくわかっていなかった。
 懐かしい風景がたくさんで感動した。旅人だったころ、富良野はこのド ラマのせいで観光地化されすぎていて人も多く、わたしの居場所はなかっ たので、その近くの美瑛というところにしばらく滞在していた。テントを 開けるとパッチワークの丘のずっと遠く先に、北海道の屋根といわれる、 旭岳を含む大雪山連峰が見える。その辺りでは「北の国からでおなじみの 」風景が見られる、らしかった。わたしはそのドラマをまったく知らなか った。とんねるずの石橋貴明がしていたものまねを知っている程度で。
 前回ので宮沢りえが入った十勝岳の温泉「吹き上げの湯」なんて、北海 道中にたくさんある無料の露天温泉のうちの一つだが、ドラマのせいで観光 スポットになってしまい、下着をつけたまま入浴する人、ごみを捨ててい く人、マナー悪いのなんのって。このドラマを恨んでいる旅人は結構多か った。

「えー、相馬ちゃん、北の国からなんて見るのー!?似合わないよー! 」
 バイト先の俵田さんが言った。
 「なんでよ、自分は好きじゃないの?」
 「嫌いだよ。だって純くんだらしないんだもんよー。男らしくねえんだ よ。うじうじしやがってよー。女にも仕事にもだらしがねえし、そんでい ちいち傷ついて、周りがそれ許しちゃってるしよー、蛍も蛍で不倫して子 供まで作っちゃってよ、ふざけんなって、駆け落ちした母親とおんなじじ ゃねえか、蛙の子は蛙かよって気にさせられんのよ。」
 「えっ、あの家庭、母親に駆け落ちされてんの?」
 「そうだよ、そんなことも知らねえのかよ。かわいそうな子たちなんだ よ、蛍だって小さいときはほんとにかわいかったんだぜ、それなのによー。 」
 相当な思い入れである。

バンドの相方、まなびーが言った。
 「えー、ビデオ頼んでまで見るんですか、俺はだめっすねー、あの暗い かんじ。」 
 スタジオの時間待ちで、車の中でテレビをつけて「北の国から」に合わ せた。
 純くんが結ちゃんに、休日がいつなのかを聞いた。りんごをかじりなが ら、結ちゃんの休みが日曜だということがわかるのにたっぷり1分はかか った。
 「だめっすねー、この間!ありえないっすよ。」

純くんが借金を抱えて富良野にいられなくなり、身を潜めた羅臼は知床 半島の付け根の小さな町である。そこにもわたしはしばらく滞在していた 。国後島がすぐそこに見える、漁業の町である。羅臼に長期滞在している 人は、みんな昆布干しや魚の加工のバイトをしていた。結ちゃんと仕事仲 間になってしまう環境である。わたしは羅臼では働かなかった。純くんが 結ちゃんの義父と初めて会い入った、波打ち際の温泉にもわたしは浸かっ た。あれはほんとに素晴らしかった。満潮になると沈んでしまう温泉だ。 脱衣所もなく、わたしも純くんのように、そこいらで服を脱いだものだ。

ドラマってすごい。こんな話、あるわけないじゃん、ってのを真剣につ くっている。流氷の上、結ちゃん義父の通称トドがトドをしとめて遭難か ら歩いて帰ったシーンでは爆笑した。結ちゃん旦那が純くんに結ちゃんを 譲るってのも都合良すぎて笑えるし、富良野の町を調べる結ちゃんをこっ そりつけ回すシーンもおかしいし。全体的に、偶然に頼りすぎなんじゃな いの?って突っ込みたくなる。まだ一度も寝てない二人が結婚を決めてし まうってのもすごくない?
 って、感動の場面ではことごとく笑い転げてしまったが、あそこまで行 くと芸術だとわたしは心から思った。すごいよ、倉本さん!ありえない世 界が、そこには確実に存在していた。
 吾郎さん、すごいよね。素晴らしい生き方だよね。完璧です。でも、ド ラマになってしまうということは、やっぱりありえないことなんでしょう か。あんなふうに生きることはできないのでしょうか。
 などと、虚構に多感になってしまうわたし。
 映画やドラマに夢中になれないのは、所詮空想の世界の話だからかな。 わたしは、現実という映画をつくりたい。わたしに関わるすべての人が、 わたしのドラマの出演者ということだ。
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