わたしにとっての年越しは、紅白の後、ゆく年来る年を見ながら除夜の
鐘を聞き、厳かな気分でそばをすすって、日付が変わったら、
「明けましておめでとうございます」
と、家族で挨拶を交わし、近所の氏神様にお参りに行ったり、テレビを
見ながらうたた寝したりするものであった。これぞ、王道。正しい年越し
。
今年の年越しは、正しい放蕩娘っぽく決めてみた。ボーイズ&ガールズ
で鍋をしながら、男子は「イノキ、ボンバイエ!」を見、女子は苺にアイ
スクリームをのせる食べ方を開発しつつも恋話に花を咲かせ、メインイベ
ントのボブサップを泣く泣く見ずに、八景島シーパラダイスのカウントダ
ウンイベントの花火を見るために、横須賀から金沢八景へ車を走らせた。
横須賀の街は年末らしくひっそりとして、ドブ板通りに溢れるはずの米
兵たちもバーに居場所を確保してあるのか、あまり見かけない。ホットド
ックのスナックスタンドのネオンはついているけどどこか寂しげ。神社の
参道だけが、提灯で照らされいつもより明るい。
それでも、今ごろは紅白の審査発表って時間に、八景島の周囲は大渋滞
。路上駐車の嵐。営業終了していると思われるヘリポート施設の門の前に
無理矢理車を止めると、守衛さんが出て来たので走って逃げる。
「こまるなぁ、こんなとこに止められちゃ。おい!逃げるな!」
などと叫ばれ、逃げる。ついでに、隠れる。結局移動したけど。久しぶり
に怒られてドキドキした。
カウントダウンイベント会場には、日付の変わる5分前に到着した。人
の渦。満員電車ほどではないけれど。
「寒いから、くっついてていい?」
女の子が腕をからませて来る。そして、カウントダウン。
「・・・よん、さん、にい、いち、おめでとー!」
音楽に合わせ、花火が上がる。世界各国の花火。中国のは爆竹のような
花火、北欧っぽいオーロラのような花火。音楽と火花の感じで、「これは
スペインかな」「メキシコっぽーい」「アメリカ?」などと推測する。冬
の空を彩る花火は、夏の花火とはまた違った感慨。
しかし、やはり花火は日本のものに限る。侘び寂びがある。
八景島シーパラダイスには、水族館といくつかのアトラクションがある
。その中でもすごいのが、世界最高107メートルから垂直に落下する、
「ブルーフォール」というもの。絶叫マシンの最高峰。
「あれ乗りたーい!」
そんなに頻繁に会うわけでもないけど仲の良い、昔馴染みのお友達が提
案する。
「あ、わたし140センチないから無理。低血圧だし、ペースメーカー
入ってるし。妊娠もしてるかも」
わたしの言い訳は誰一人聞く耳持ってくれず、結局その日の昼にパチン
コで6万儲けたという相方のギタリスト、まなびーのおごりで、新年早々
の深夜寒空の下、その絶叫マシンに乗るために一時間は並んだ。
「新年早々、刺激的!」
お友達ははしゃぐ。わたし、この手の乗り物は嫌いじゃなかったはずな
のに。「ブルーフォール」だって、初めてではない。それなのに、いやい
や並び、とうとう搭乗してからは、無言なわたし。アディダスサンダルの
まなびーは履物を自殺者のようにきちんと揃えて、わたしたちは空へと上
昇した。
「すごい、高い!」
ぐんぐん昇って行く。海の向こう、美しき夜景。ああ、わたしは「自殺
完全マニュアル」の、「飛び降り」の項を思い出す。
「飛び降り自殺の場合、地面に叩きつけられる前に人はショック死する
。落ちて行く間に人生が走馬灯のようにフラッシュバックし、数ある自殺
方法の中でも最も確実で、最も気持ちの良い死に際と言われる、云々かん
ぬん・・・」
地上107メートル。止まる。
「来るよ、来る!」
落下。と思いきや、一旦停止。ほっとするのも束の間、今のは予行演習
らしい。そして、本番。落下!・・・・
叫ぶことすらできない、内臓がスピードに追いつかずに持ち上がる感覚
。叫べない。気が遠くなる・・・。あ・・・・。
と、終焉。ほんの数秒間の出来事。
「すごーい、楽しかったね」
無邪気に笑う仲間たちのそばで、未だ無言なわたし。
「刺激的な一年になりそう!」
だなんて、そんな刺激、わたしはいらない。
電車も眠らない、大晦日の夜。深夜3時半のJRに乗って、帰路に着く
。横浜市内の実家に向かう。明け方5時の、横浜線小机駅。ブーツのかか
とをコツコツと鳴らして、歩く。実家の犬は死んだ。こんな時間に帰って
も、誰もなにも言わない。
近頃はリビングのソファベッドで眠る、母の横に潜り込む。母と寝るな
んて、幼い頃から妹と二人で寝てきたわたしには記憶にすらないこと。好
きな人の傍らで眠るよりも落ち着かないままに、眠りの尻尾をなんとか捕
まえ、落ちて行く。
春になったら、妹も結婚してこの家を出て行く。来年の正月はどんなん
だろうね?