レコーディング

15歳のときにバンドで初めて歌って以来、実に15年歌い続けている。
 一体何回のステージに立っただろうか?キャバレーとナイトクラブの2ポイントのバンド演奏の仕事をしていたときは、毎日7回のステージをこなしたものだ。
 音楽活動というものは、作品作り、ライブ、レコーディング、その繰り返しであるわけだけど、わたしはこのうち「レコーディング」というものを故意に避け続けていた。
 垂れ流しの音楽活動。
 自宅録音さえ、いまは気軽に誰でもできる時代。たしかに、自宅に簡易レコーディングスタジオを持つ知り合いに頼んで、録音したものもいくつかはある。しかし、公に発表する気になるものができた試しがなかった。クリック音に合わせた自分の歌は、適度にこなれていて、可もなく不可もない、つまらないものになってしまうのであった。
 録音のたびに自信をなくす。わたしの歌ってこんなにつまんないものなのかって。だから、ずっと避けていた。ライブであれば、たくさんの人が「波動」を感じてくれた。この「波動」そのままに録音できないものか?
 そんなことを考えていたら、ベースのターボさんがすごい人を紹介してくれた。アナログレコーディングのプロ。オールドの真空管マニア。その手の機材、また、楽器の修理、販売も引き受け、アーティストでもあるお方。
 打ち合わせで自宅にお邪魔したときなど、前日に自宅で豆を煎っておいたと言いながら、ネルでコーヒーをいれてくださる。そんなところにもマニアックな片鱗を感じさせる方。
 小綺麗なマンションの、いくつかある部屋は録音機材やアンプで埋め尽くされ、へんなカタチのマイクもたくさん。それらをちょっと嬉しそうに説明してくれる。
 で、レコーディングと一口に言っても様様なやりかたがあって、わたしたちは、せーの、で音を出す、一発録音を選択した。
 ターボさんにはウッドベースをお願いした。わたしたち、3人の真中にマイクを1本。それも電動歯ブラシみたいなカタチのマイク。その中にも真空管が入っているらしい。フェンダーの、これまたオールドの真空管アンプは、少し3人の輪から離して、ウッドベースもわたしの歌も、生音である。ヘッドフォンもなし。それで、オープンリールのテープに録音するのだ。
 「途中、ミスったら自己申告、恨みっこなしね!」
 ターボさんの明るい誓約宣言のもと、これまたターボさんの渋い作り声のカウントで演奏が始まる。
 当初、半日で5曲なんて無理だろうとお兄さんたちは思っていたらしいが、予定の5曲を録り終えた。友人価格でお願いしたとはいえ、お金かかってますから、そりゃやり遂げないと。
 「これはもう、1950年代のジャズの録音と同じやり方。機材も当時のそのままですよ」
 満足気に、エンジニアの佐藤さん、ヘッドフォンからの音を聞かせてくれる。それは空気をやわらかく振動させる、心地よい木のベース音、それに乗っかるわたしの声と、まなぶくんのギター。たっぷりと空気音を含ませた、アナログならではの作品となった。
 それらは、一度DATに落とされ、それをCDに量産して、みなさまのお手元に届けます。7月13日(日)、渋谷ブルーヒートで会いましょう。