2丁目事情(Feb.21,2005)

ゲイの男の子に新宿二丁目を案内してもらった。時々遊びに行く六本木のお店の男の子だ。
 彼は雅也くん25歳、一見今どきの洒落た男の子で、清潔感のある短い金髪、顎のラインには本人曰く「小顔効果をねらった」髭が左右のもみ上げを繋げていて、喋らなければいわゆる「イケメン」というやつである。
 しかしひとたび口を開くと、連日の飲酒、喫煙、騒音の中での声の酷使でオカマ特有の枯れた声、「もぉ、やっだー」と手のひらをひらひらさせて、煙草を吸うときに口元に当てる揃えた指や、グラスを持つときに自然に立つ小指なんかはあまりにも自然で美しい。
「でもこの指ってアンテナなのよー。あまり酔っていないときは一本、少し酔ってくると二本、調子出てくるとバリ三よー。」
「バリ三」のところは男らしいドスをきかせて言う。 
 同性同士のような気楽さでおしゃべりを楽しめるのに、イケてる男の子として目の保養をさせてくれて、なんだかドロドロとしたものを抱えている普通の女の子と違って裏表がないし、女特有の媚びやへつらいがないし、面白いネタをたくさん持っているし、こちらの声がオカマっぽく枯れてしまうほど、いつも笑わせてくれるのだ。

わたしはその世界を全く知らない興味津々な女の子を連れて、新宿伊勢丹の前で雅也くんと待ち合わせをする。普段はスーツ姿で一見ホスト風の雅也くんは、腰履きにしたジーンズにキャップを被って、あまりにも普通の若い男の子で新鮮だった。もう一人、別の場所で待ち合わせたタミーちゃんは、雅也くんのお店にいた子で、昨年の夏以来の再会である。
「きゃー、久しぶりぃ」
 内股で駆け寄ってくるタミーちゃんも、かっこいい男の子。雅也くんより二つ年上だが、仕草が可愛らしい。同行の女の子を紹介すると、顔の横でVサインをつくって、
「はじめまして!タミーでっす!」
 と、キャピキャピぶりをアピールする。
 スタッフが片言の日本語しか通じない、現地の食堂と見まごうほどのお世辞にもキレイとは言えないタイ料理店で、安くておいしいタイ料理を食べながらおしゃべりに高じる。出会い系で見つけたタミーちゃんの彼氏のお話や、ゲイとニューハーフの違いについて。
「女っぽく喋っていても、タミはネコだけど、雅也はタチなのよね」
 連れの女の子は目をパチクリさせている。
「男同士でしちゃうんですかぁ」
「そうよー、気持ちいいのよー。でもあたしたちは友達同士だからしないわよ」
「女には興味がないんですか?」
「だって心は女ですもの」
 二人の仕草や会話を聞いているだけで面白い。わざとらしい女らしさが妙に自然なのだ。
「こないだおなべさんの店に行ったの。ちょーかっこいい人がいたの、ちょっとくらっと来たわ。あの手の人たちとなら結婚しても法的には正常なのよ。なんだかおかしいわね」
 彼らは男として男が好きな、「ゲイ」である。性転換をすると「ニューハーフ」だが、「ゲイ」の彼らは男としての自分の体は気に入っているらしく、女の体に憧れるわけではない。それぞれの田舎にいた頃は、「ゲイ」であることを隠すのが辛かったそうだが、二丁目はそのままの自分でいられるパラダイスなんだそうだ。

タイ料理のあとは、二人の知り合いがいるカウンターだけのお店へ。そこでもスーツ姿のかっこいい男の子たちが、可愛らしく接客している。ついてくれたのは、まだ21歳の、ジャニーズ系の篤くん。AV出演ありなんだそうだ。
「雅也ったらわたしと出会う前にたまたまわたしのビデオ観て、ヌイたらしいのよー!」
「うるさいわね!知ってたらあんたなんかでヌカないわよ!」
「裏のビデオ屋で売ってるわよ。見てみてー」
 そのうち時間になって、タミーちゃんは仕事に行った。パーティーがあるらしく、一緒には行けなかった。前夜仕事が明けて昼の2時まで一緒に飲んでたという大作くんという子が代わりに合流する。
「金曜につくばから来て、うちの店手伝ってもらってるの。普段はサラリーマン。土日は二丁目で一緒に遊ぶの。みずかママに紹介したくて」
 大作くんと雅也くんは、篤くんの同居人の子と仲が良いらしく、その店は溜まり場になっている様子。出入りするお客さんも同業者が多く、挨拶がひっきりなしだ。
 鏡月のボトルを空けてしまい、店を出た。土曜日の二丁目は賑わっていて、歩いている男の子たちもみんなゲイなのかと思うと、いい男ばかりなのでもったいないなーと思う。女は何をやってるんだ。
 煌々と明るいビデオショップへ入り、みんなで篤くんの出演作を探す。すべてがホモ作品のビデオ屋さんで、マッチョな男が可愛い男の子と赤裸々に絡んでいたりするポスターや、えげつないタイトルのビデオがずらりと並ぶ。
「やだー、もう、こんなの見てたらムラムラきちゃうわー」
 と雅也くん。
「あったわ、これよ」
 30%オフのシールが貼られたパッケージには、あどけない篤くんが二人の男に責め立てられているシーンや、モザイクがかったものをくわえているところが写っていた。
「えー、篤くんちょっとあどけなさすぎない?」
「年齢誤魔化してたって言ってたから、相当若い頃よね。16とか17とか」
 お店では、連れの女の子と「見たーい。買う」と言っていたけど、あどけなさすぎてやめた。
「そうね、知ってる子のは見ない方がいいわよ」
 大作くんもそう言って、ビデオ屋を出た。でもなんだろう?普通のAVよりいやらしく感じないのはなぜ?

もう一軒、彼らの仲間が働いているバーへ行った。そこは誰かのカラオケがBGMになっているけど、スタイリッシュなカウンターバーだ。働いている子もお客さんも若い。女性はチャージを取られる。千円だけど。隣の三人組の男の子たちは、そのうち酔いつぶれて子猫みたいに折り重なって寝ている。ときどきその中の二人が寝ぼけながらいちゃいちゃしている。キスなんかしちゃって。それも若くていい男同士が。
「これが二丁目よ」
 女であることの業の深さを認め始めてから、自分を含め女を赦せるようになって来たが、ホモの世界は女のドロドロさが一切介在しない分、むしろ健康的で美しくさえある。女が快楽を貪る裏に、どこか罪悪感が見え隠れするのに比べて、彼らの快楽への欲求はストレートで、一回完結型のように見受けられる。欧米作品のAVなら女性が絡んでいてもスポーツっぽい明るさがあるのだけど。
 その世界は意外にも底抜けに明るかった。知らない世界を垣間見させていただいた。良い夜だった。