ライオンに襲いかかられ肉を引きちぎられるシマウマは、恐怖を通り越した恍惚の 中にいるとわたしは思う。その死に際に恐怖と怨念しかないとしたら、この完璧なバ ランスで保たれている自然の摂理は壊れてしまう気がするのだ。愚かな人間ならば、 シマウマは恐怖しか味わっていないと思うだろう。けれどわたしは確信する。彼らの 死は恍惚の中にあることを。
ササヤマさんはいつも荒々しくわたしに襲いかかる。甘ったるいムードもやさしい
愛撫もない。ササヤマさんの出っ張ったおなかがわたしを押しつぶして、わたしは身
動きもできない。嗅ぎ慣れたササヤマさんの香水の匂い。煙草の匂いとまじって、そ
れはそれは背徳の香り。ササヤマさんがお金をくれるたび、憎悪と罪悪感とササヤマ
さんのやさしさがないまぜになり、わたしはいやらしく脚の間を濡らす。
首すじに口づけられると、短く刈っているササヤマさんの髭がわたしの皮膚を突き
刺して逆撫でする。痛いのだ。強く乳房を掴まれ、揉まれ、息を荒げたササヤマさん
が尖ったわたしの乳首を口に含むと、甘い快感よりも突き刺さる髭の痛みがわたしを
支配して、わたしはいつだってライオンに食べられるシマウマのことを考えてしまう。
どうしたって逃げられない。ササヤマさんはわたしの快楽などおかまいなしで、わ
たしを食い尽くそうとする。わたしの叫びは快楽を訴えるもののようにみえて実は違
う。恐怖と痛みだ。指を入れられかき混ぜられ、強く吸われる。わたしは固く目を閉
じ、ササヤマさんを受け入れる。その瞬間、彼のために存在しているとわたしは思う。
わたしは生贄だ。この人はこれがないと生きて行けない。なんてかわいそうな愛しい
人。
ただただ、彼のおもちゃになっている。そのうち飽きて捨てられるであろうことも
知っている。わたしの肌に彼の噛み跡。髭で逆撫でした跡は赤く。
ライオンが雄叫びをあげるようにして、ササヤマさんは果てた。彼には肉食動物と
いうことばがぴったりだ。そして、わたしは死に似た恍惚を味わいながら、今夜飲む
ワインのことを考えている。